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キュルケは褒められた。もんのすんごく褒められた。 三十メイルもあるゴーレム相手に一対一で圧勝するっていうくらいだから褒められるに決まってる。 褒められるだけじゃなく、使い魔に関していろいろと質問攻めにされたらしい。自慢してた。 「シュヴァリエ」の爵位ももらえるということで、これ以上ないくらいの有頂天だった。ふんっ。 タバサも褒められた。こっちもかなり褒められた。 各地を賑わせた大泥棒・土くれのフーケを捕まえればそりゃ褒められるわよ。 「シュヴァリエ」の爵位はすでに持っているとのことで、精霊勲章が授与されるらしい。 すでにシュヴァリエだったっていうのはスゴイわね。人は見かけによらないわ。 モンモンランシーもちょっとだけ褒められた。ヨーヨーマッがマリコルヌを助けたからね。 助ける以外の意図があった気もするけど、それはこの際見なかったことにするらしい。 ギーシュはちょっとだけ評価が上がった。 大釜を担いでいる状況下で自分の安全よりも先にモンモランシーを助けた態度が評価されたらしい。 話を聞いて、たらしっぷりを嫌っていた連中もちょっとは見直したみたい。 しかしあの大釜、どういう原理で動いてるのかしら。自力じゃ絶対移動できないと思う。 ミキタカとぺティは褒められたわけじゃないけど感心された。 時間を置いていてさえ、後片付けの使用人達が顔をしかめる激臭の中で平然としていた二人はたしかにびっくりね。 で、その他。 「あのねグェス。マリコルヌが褒められないってのはよく分かるわ。だって彼足手まといだったもの」 「そうよねー、リアルで腰が抜けた人なんて初めて見ちゃった」 「問題はね、腰が抜ける等のアクシデントに見舞われなかったにも関わらず何もしなかった人だと思うの」 フーケの杖を奪ったのはたぶんグェスなんでしょう。 まさか本当に失くしたわけないだろうし、グェス以外の人がとったなら名乗り出てるはずだし。 何より得意げに見せびらかしていたことがいい証拠よ。 これはこれで立派な殊勲だと思う。褒められるべきことだと思う。 二十メイルは離れていた距離で、おそらくは肌身離さず携えていた杖を奪い取るなんて。 それも大泥棒・土くれのフーケから! 単なるこそ泥には絶対できることじゃない。でもね……。 もしここで「ジャンジャジャーン! 実はフーケの杖を奪い取ったのはうちのグェスでした!」なんて発表しようものならどうなることか。 「そうか、ルイズの使い魔は物を盗むのが得意なのね」って思う人がいるでしょ。 そうなれば「あれ? そういえば最近ちょっとした物がなくなったりしたけど」と考えることもあるはず。 で、「ひょっとしてルイズの使い魔が盗んでたんじゃ……」となって、 「それじゃ私の金貨も」「ひょっとして俺の剣もじゃないか」ってなる。 つまり手柄を誇ると同時に罪科までついてきてしまうという形になるの。意味無いじゃない。 誰にも知られない手柄なんて、何もしなかったのと変わらないわ。 誰が喋ったのか、「ルイズが人質になって足を引っ張っていた」なんて噂まで広まってるし。 「わたしよりマリコルヌの方がよっぽど足手まといだったっていうのよ」 「あまり他人の悪口言うもんじゃないわ。せっかくの可愛いドレスが台無しよ」 グェスに諭されるし。もうわたしは人として駄目なのかもしれないわね。 「ほら、できた。きれいなルイチュかわいいルイチュ。頬ずりしたくなっちゃうくらいよ」 慣れない化粧はグェスに任せた。おかげで鏡の中のわたしはいつも以上に美少女してる。 胸元が開いているせいで貧弱なバストサイズをアピールし、バレッタでまとめた髪は鬱陶しい。 白い手袋なんてして、汚れたりしないかしら。 「うーん。さすがに首輪はアウトよね。このネックレスなんてどうだろ」 「……ねえグェス、本当にきれい?」 「もちろんキレイよ、あたしのルイチュ」 「誰があんたのものですって?」 「もう怖い顔しないでよ。ジョークよジョーク。そんなにムキにならないでさー」 調子に乗りやすいんだから。謙虚な主とは大違いね。 「それじゃ大人しく待ってなさいよ。人の物に手を出したりしちゃ駄目だからね」 「わかってるってばァ」 「あとね」 「何よ」 「ありがとう、グェス」 どんな顔をされるか見たくなかったから後ろを振り返らずに控え室を出た。 調子に乗られるのは癪だけど、杖を盗ってくれなかったら命が無かったもん。 逃げるしか能が無いと思っていたグェスが、わたしの数百倍は役に立ってくれた。数千倍、数万倍かもしれない……はぁ。 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール嬢のおなーりー!」 おなーりー……ってなんとなく卑猥な響き。 でも今のわたしは犬以下のモグラ。それが相応しい女よ。 キュルケはホール全体の中心だ。普段から人気のある子だけど、今日はさらに特別だもんね。 高い鼻は一層高くなり、自負と自信が彼女を包み込んでいる。本当にわたしとは対極的な存在ね。 嫉妬にかられた誰かがカマイタチでも使って服も下着も切り裂いてくれないかしら。 スカッとするし眼福もあるしで二度美味しい……友達の不幸まで願うようになったらおしまいね。今のは無かったことにしましょう。 キュルケがこちらに手を振っていたので舌を出してやったらおっぱいを揺らされた。くっ。 キュルケの取り巻き達がわたしにチラッと目をくれて、すぐに逸らした。ふん。 ダンスを申し込んでくる男の子も何人かいたけど、皆わたしに同情してくれているのね。ありがとう、気持ちだけはいただいておくわ。 「ヨォールイズ。メッチャクッチャキレェーだなァーッ」 そう言ってくれるのはあなただけよドラゴンズ・ドリーム。 あなたはわたしより先にご主人様見てあげてね。詰め込みすぎて頬が三倍に膨らんでいるようだから。 例のごとく、ミキタカはシエスタと話し込んでいるみたい。 ミキタカと話す分には料理長も文句を言わないし、シエスタもやりたい放題ね。強くなったわ……本当に。 モンモランシーは大釜とダンスを踊っていた。さすがに恥ずかしそうだけど、相手の大釜は楽しそうに踊っている。 一年生らしき女の子が何も見ていない目で大釜を見ているけど……ギーシュの浮気相手かな。 彼女達の未来に幸あれかし。わたしにはそれくらいしか言うことがない。 モンモランシーの使い魔はメイドに混じって給仕をしてた。 ゴーレムに踏まれて以来、妙に動きが良くなった気がする。 頭の中の蛙も潰れた、なんて意味の通らないことを言っていたけど何なの? なんだかんだでみんな楽しそう。大切な人と楽しみを分かち合っている。楽しめないのはわたしだけ。 ホールには居場所が無くて、わたしはバルコニー、通称さびしんぼゾーンに出た。こういう気分の時はここでやり過ごすに限るわね。 バルコニーの枠で頬杖をついてため息。何かあるたび思い知らされるのよね。わたしって本当に役立たずだ。 誰かの役に立ちたいとか、誰かに褒められたいとか、誰かと仲良くなりたいとか、何一つ上手くいかない。 本当はもっと違った気がするのよ。ギーシュと決闘してこてんぱんにするとか、フーケをやっつけて皆に一目置かれるとか、キュルケに迫られるとか。 シエスタと一緒にお風呂に入るとか、タバサに舌入れてキスされるなんてのもあるわね。 全部妄想なんだけどさ。現実じゃ何一ついいことないもの。 かといってミキタカほど妄想方面に突き抜けることもできないわたしは中途半端一直線。 中途半端なりになんとかピリッとした解決策を望んでいるんだけど……むう。 お酒でも飲んで憂さを晴らしたいけど、わたしって舐めただけでもダウンしちゃうからなぁ。 もう少し強かった気もするんだけど、それもまた妄想なんでしょうよ。 「あ……」 一人たそがれてるのに、空気を読まずベランダへ踏み込んでくる気配を感じて振り向いた。 そう、空気が読めない人といえばこの人をおいて他に無いわよね。 「マリコルヌ……」 「ちょっと、いいかな」 よくないって言っても聞きやしないんでしょうね。はいはい。 「何? なるだけ簡潔に済ませてもらえる? わたしもうちょっと一人でいたいの」 「うん……あのさ」 何か躊躇しているというか……言いにくいことでも言おうとしてる? 不可解なその態度は、わたしに一つの事実を思い出させた。そうだ、わたしはこいつに弱みを握られていた。 これはアレかしらね。「秘密を暴露されたくなければ言うことを聞け」ってやつ。みなさーん、ここに犯罪者がいますよー。 「ちょっと……その、謝りたいことがあって」 謝りたい? こいつに謝られるようなことって何かあったっけ? 「フーケを捕まえた時、ぼく一人だけ何もできなかっただろ」 何もできなかったっていう自覚はあったわけね。 「それで、君を危険な目に合わせちゃっただろ」 申し訳なく思ってたってわけか。意外と馬鹿真面目なところがあるのねぇ。 「別にあなたが謝る必要はないわ」 「うん……」 わたしとしてはさっさと向こうへ行ってほしいんだけど、マリコルヌは動こうとしない。 「まだ何かあるの?」 「あの……さ。もし次があったら」 「次があったら困るでしょ」 「もしだよもし。もしも、次があったらって話だよ。もし次があったら腰が抜けても魔法を使うよ」 うーん……本人は決意表明しましたってところなんでしょうけど……微妙ね。 正装で決めてるんだけど衣装に着られている印象が拭いきれない。言うなれば大人の格好を真似してみた子供。 そんなマリコルヌが腰が抜けても魔法を使うって失笑ものじゃない? わたしは笑わないけど。 「決意は買うけど、腰を抜かさずに魔法を使った方がいいんじゃない?」 「……それも頑張るよ」 そっちを頑張りなさいよ。あんた優先順位間違えてるんじゃないの。 優先順位……優先順位か。ふーむ。なるほど。これはこうしてあれがあれで。 そうなるわよね。つまりわたしは……ちょっと面白いこと思いついちゃったかもしれない。 プロジェクト名は……使える女ルイズ計画とでもしておきますか。 「じゃあねルイズ。君をパートナーにしたい人も少なくないみたいだから早く戻ってきた方がいいよ」 「余計なお世話よマリコルヌ。ところで……」 どうしようかな……でもここで聞いておくべきよね。聞かないままでいるってのは精神衛生上良くないもの。 「わたしの方からも聞きたいことがあるんだけど……いい?」 「何だい?」 「あのね、ほら、一昨日の夜……わたしが学術的な好奇心からキュルケの本を読んでたじゃない?」 「うん」 「それで……あなた、その事誰にも言ってないわよね?」 「そうだね」 「どうして?」 わたしの知る限り、最もわたしを馬鹿にしていたのがこのマリコルヌだった。 ゼロと呼んだ回数はキュルケよりも多かったんじゃないかと思う。 キュルケはかわいがるって感じだけど、こいつの場合は笑い者にしてやろうって感じなのよね。 言われるたびに風邪っぴきと言い返して、罵りあいに発展、先生に怒られたってことがどれだけあったかしら。 「あなたはゼロのルイズを馬鹿にするのが好きなんでしょう? だったら皆に触れ回るべきだったんじゃないの? 学術的好奇心からとはいえ、淑女が読む本ではないもの」 「……ぼくはあまり魔法が得意じゃない」 わたしの前で魔法が得意じゃない宣言とは……喧嘩売ってる? 「魔法を使えない君を馬鹿にすることで、自分が上にいるような気になってたんだと思う」 やーな男ね。 「でもさ。ぼくは君を散々馬鹿にしてきたのに、君はぼくの使い魔を笑わなかったろ」 あ、そうだ。ひっついているだけで何もできないマリコルヌの使い魔蛙。 嫌ってほど馬鹿にしてやろうと思ってたのに、色々ありすぎて忘れてた……。 「それだけじゃなく……元気を出せって励ましてもくれた」 危なかったわ……もし思った通りのこと口に出してたら、今頃わたしここにいないわね。 「あとさ……」 パーティーの喧騒に紛れるくらい声を落としてこう付け加えた。 「もしもぼくが君の立場だったら……やっぱり黒い場所を爪でこすったと思うんだ。たぶん君よりも熱心に」 どちらからということもなく顔を見合わせた。 ちょっと躊躇したけど、自然に浮かんだ苦笑いを抑えられなかった。 マリコルヌは頬を朱に染めて照れ笑いしてる。 「どうしようもない人ね、本当に」 「君に言われたくないよ」 本当にどうしようもない。口に出しただけじゃなく、心から思っている。でも、わたし達は笑った。 こちらもまた心から笑った。自嘲なんかじゃなく、なんていうか……楽しかったのよね。不思議と。 わたしはドレスの裾を両手で持ち上げ膝を曲げて一礼、 「わたしと一曲踊ってくださいませんこと。マリコルヌ・ド・グランドプレ」 マリコルヌはそれを受けて胸に手を当て一礼、 「ぼくでよかったら喜んで。ルイズ・フランソワーズ」 わたしの手をとり、ホールの隅に導いた。 キュルケやその他あでやかな人達が目立つ場所で踊る中、わたし達はひっそりとステップを踏んだ。 僻んでいるわけでもいじけているわけでもない。わたし達には隅が相応しい。 だって、目立つところで秘密のお話ってわけにはいかないでしょう。 「マリコルヌ。あなたもああいう本持ってるわけ?」 わたしは小さく囁き、 「さすがに異世界の書物は……でも『メイドの午後』の無修正版なら」 マリコルヌは小さく囁き返す。 「焚書の憂き目にあったっていう無修正版? スゴイもの持ってるのね。後で見せなさいよ」 「いいけど。汚さないでくれよ、大事なものなんだから」 「フリッグの舞踏会」の伝説に反し、恋人と結ばれるなんてことにはならなかった。 でも、それはそれでいいと思う。ここには恋人よりも手に入れ難い……同志がいるんだから。
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オープニング 「First kiss」 作詞:ICHIKO 作曲・編曲:新井理生 歌:ICHIKO ※第13話のみSE付き 2chのアニソンランキング 147位(2007年12月版)、123位(2008年05月版) エンディング 「ホントノキモチ」 作詞:森由里子 作曲・編曲:新井理生 歌:ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール(釘宮理恵) ※第13話ではエピローグ時に流れた VIPPERが選ぶアニソンベスト100+α 73位(第1回) 挿入歌 イメージソング・キャラクターソング 関連作品 ゼロの使い魔~双月の騎士~ (2007) 投票用テンプレ First Kiss(ゼロの使い魔/OP/ICHIKO/2006) ホントノキモチ(ゼロの使い魔/ED/釘宮理恵/2006) OP…オープニング曲、ED…エンディング曲、IN…挿入曲、TM…主題曲 IM…イメージソング・キャラクターソング
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何時もの夢。 何時か見た戦場の光景。 何時か嗅いだ血と硝煙の臭い。 何時かの断末魔の叫び。 どれもこれも、俺が銃で作った物だ。 「=%&¥%&‘()?」 その見慣れていた世界に、見慣れないピンクの人影が現れた。 ―殺セ ―殺セ殺セ ―殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ殺セ 彼女は何か叫んでいる様だが、耳鳴りの所為で全然分からない。 何を言っているのか近付いて尋ねたいが、体が自分の意志で動かせない。 機械仕掛けの人形の様に俺は少女に銃の狙いを付け……引き金を引いた。 【青い鬼火の使い魔】『Cold Maid』 普段通り目覚めは最悪だ。 しかも、今日は寒気までする。 何かこう……腰から膝の辺りまでがスースーしている気がする。 「お目覚めになりました? ああ、此処は魔法学園の医務室です。 使い魔さんが突然倒れられたので、皆さんが運び込まれたんです。」 目を開けると、黒髪のメイドさんがいた。 片手には尿瓶を持っている。 もう一方の手は、俺のズボンとパンツをずり下ろしている。 そして、淡々と状況を説明している。 検査とかで下着姿を見られた事はあるけど、それでもこれは恥ずかしい。 そもそも、催してないし。 一先ず何としてもズボンを引き上げようとする。 流石に話し掛ける時にこんな格好はイヤだ。 「ねぇ、メイド!! わたしの使い魔、まだ眼を……覚まさな……いの……?」 丁度パンツを引っ張り上げた所で、あのピンク髪の女の子が部屋に入って来た。 顔が真っ赤だけど、俺の方も顔の温度が上がってるのが分かる。 そんなにマジマジと見ないで下さい。 そう言えば、何時の間にか俺にも女の子は理解出来る言葉で喋っている。 俺の方をちらちら見て『一本ダタラ』とか変な事を言っているけど、 一先ずさっきまでの『理解以前に聞く事自体が不可能な言葉』とは違う。 俺が帝国の人間と分かったから言葉も切り替えたのかと思ったけど、 さっきのは良く考えてみたら俺じゃ無くてメイドさんに話し掛けていたみたいだし。 「ああ、ミス・ヴァリエール。 丁度良かった。 代わりに採尿して下さいます? やっぱり使い魔さんにはご主人様の方が。」 『は?』 尿瓶を渡されて固まる女の子と淡々と使い方を説明するメイドさん。 あのメイドさんは多分、 キスの手伝いとか言って人の頭をグリグリと押したりした事とかがあるに違いない。 正直、リアクションに困る。 呆気に取られた俺は、メイドさんがお辞儀をして出て行くのを止められなかった。 女の子に至っては、尿瓶を片手に視線を虚空を彷徨わせてる。 オーランドですが、医務室の雰囲気が最悪です。 See You Next Time!
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前ページ次ページ創世の使い魔 創世の使い魔 第0章 ―とある酒場にて― ――『彼』の話を聞きたいって? 珍しい事もあったものだ。『彼』の話を聞きに来たのは君が初めてだ。 おっと、気を悪くしたかな。いつもは船に関係することばかり話してるものでね。 ああ、『彼』の事はよく知ってるよ。『彼』の事を調べるのはとても興味深いからね、まぁ私の数少ない趣味さ。 『彼の伝説』の伝説は至る所に存在する。 例えばフランスの昔からあるおとぎ話で、杖を携えた少年が暴君を倒すというお話は、とても有名だ。絵本にもなっているね。 実のところ、かの王を殺したのは『彼』ではないのだけれど、少なくとも関係者であるという資料は残されている。 そも『彼』の伝承を遡ると、実は文明発祥の時代まで遡ることができる。 いや正確には、それ以上遡るための資料がないと言ったほうがいいかもしれない。 アフリカにその頃に描かれた壁画が残されているんだけど、『彼』の特徴と一致する人物の絵が複数箇所で発見されている。 他にもチベット仏教の経典には、『輪廻の外に在る者』『未来の導手』『昼と夜の間に立つ人』という称号とともに『彼』の名が残されていて、 その扱いは最高指導者であるダライ・ラマと同等であるともされているんだ。ただ、ラマたちと異なっているのは『彼』は 輪廻する事無く――つまり死ぬこと無く、今もどこかで生きているとされている点だね。 他にも『飛行機』を発明できたのは『彼』のおかげだという話もあるし……そうそう、ファーストフードの代名詞であるハンバーガーの考案に 協力した、なんていうのもあるね。 冗談みたいだろう?同一と思われる人物が世界各地の異なった時代に――しかも20世紀まで、その痕跡を残してるなんて。 一度だけ、考古学の分野で彼の事が取り上げられた事があるんだけど、そのときは一笑に伏されてしまったらしい。 まったく、悲しいことだね。 旧約聖書の創世神話はあれだけ人々に信じられているのに、たった一人の英雄が人類文明を『復活』させた、というのは 彼らにとってみれば陳腐な妄想にすぎないようだ。 あぁそうそう。時に君は、『オーパーツ』という言葉を知っているかい? 場違いな工芸品――Out Of Place Artifacts、略してOOPARTS。 考古学上、当時の文明では加工する事や製造することが困難な出土品の事を指す言葉だ。 さて、いま私が首から下げているネックレスだがここにはまっている宝石がなにか、君は知っているかい? ラピスラズリ? アイオライト? ターコイズ? 残念、どれも違う。 この石はね、『プライムブルー(原初の蒼)』というんだよ。 素敵な名前だろう。 うん? 何の関係があるって? いやいや、それが大有りなんだよキミ。 この『プライムブルー』こそが、そのオーパーツと呼ばれるべき宝石なんだよ。 それは何故か。それはね、この宝石の元素と分子構造は特殊でね。地球上にはまず存在しない物質なんだそうだ。 これは、学者先生のお墨付きだよ。 落下した隕石に含まれたんじゃないかって? それはまた夢のない話だ。人を納得させる説得力としては、まぁ十分だけどね。 で、これがなぜオーパーツと呼べる物なのか。 ちょっと、見てくれ。きれいな形をしてるだろう?まるでカットしたかのようだ。 この宝石は『このままの状態』で発掘されたんだ。おおよそ、六千年前の遺跡からね。 どうだい、夢のある話じゃないか。 他にも………。 ………。 ………。 ――いや、そうか。失礼した。 ここにいる時点で気づくべきだったね。 君はわざわざ、この『私』に『彼』の話を聞きに来たのだから。 その理由なんて、たった一つしかありはしない。 いいだろう。『私』までたどり着いた事に敬意を評して、話そうじゃないか。 この私――クリストファー・コロンブスが見聞きし、調べ上げた本当の物語を。 光と闇の使者、『アーク』によって創りだされた『天地創造』の神話を……。 前ページ次ページ創世の使い魔
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投稿日: 02/07/05 16 53 00012 能力名 心臓御殿(ブラッドチェンジ) タイプ 生体変化,機能変化 能力系統 特質系 系統比率 未記載 能力の説明 自分の心臓を排出し、オーラの形と機能を心臓に変化させたものをすぐさま移植する。 その心臓モドキを通過する血液に、オーラの性質を変化させたものを溶け込ませる。 性質の種類は様々。身体、思考能力は飛躍的に上昇し、ある種の毒やウイルスは無効化する。 頚動脈を切られてもすぐにかさぶたができ、自分の血を毒のようにして使うこともできる。 性質の種類は前もって決めたものではなく、心臓が勝手に判断する。 毒などは、血を吸われて瀕死になるような事態に遭遇しないと生まれない。 自分の意思で変化させることはできないが、一度変化すれば次からは容易に変化させられる。 自分のコントロール下には無いので、血が体からどれだけ離れられるかも、全ては心臓次第。 制約\誓約 - 備考 - レスポンス 類似能力 特質系だろこんなん -- 2015-06-12 13 20 12 コメント すべてのコメントを見る 機能変化 特質系 生体変化
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前ページ次ページ鋼の使い魔 土くれのフーケ襲撃事件から、既に半月が過ぎようとしていた。 舞踏会の翌日からギュスターヴを待ち受けていたのは、厨房以下奉公平民衆からの惜しみない賞賛の声だった。 特に懇意にしてくれた料理長マルトーは、顔を真っ赤にして喜んでくれた。 「すっげぇじゃねぇか!ギュス!貴族が息巻いて追いかけてたような盗賊を捕まえるなんてよ!」 朝食をもらおうと厨房にやってきた瞬間、歓声とともに駆け寄ってきたマルトーの声と抱擁に驚いた。ギュスターヴは気持ち逸るマルトーを一度なだめて話す。 「捕まえたっていっても、俺は手伝っただけさ。一応、使い魔だからな」 「何言ってやがる。前にも貴族に喧嘩売られて返り討ちにしてたじゃないか」 「あれもまぁ、まぐれみたいなものさ。魔法ってどんなものかわからなかったし」 マルトーの言葉にあくまで謙虚に答えるギュスターヴだったが、マルトーの脳裏ではどうやら別の解釈で刻まれたらしい。 マルトーは振り返って厨房を見渡すようにして声を張った。 「お前達、聞いたか!ギュスは俺らと同じ平民だが、貴族にも負けねぇくらい強い!だのに手前を自慢したりしねぇ!見習えよ!」 「おっす!」 マルトーの言葉尻にくっついてマルトーの弟子達が応える。 ギュスターヴがこそばゆい気持ちを味わっていると、やはりマルトーがギュスターヴを引いて食堂のテーブルに着かせた。そこには他のテーブルとは違い、一品だけ、 貴族向けに出されるメニューにも負けない彩りが盛られた皿が置かれていた。 「ギュス。これは俺からのプレゼントだ。マルトー特製ガリア牛のテールスープよ」 魔法学院の食を一手に引き受けるマルトーが、食堂に通さない雑肉の中から最も美味と考えているテール部分を選び、一晩煮込んで作った極上のスープである。 テールから溶け出した旨みが一緒に煮込まれた野菜のエキスと組み合わされ、スープの水面に映る様だ。 ギュスターヴとしては嬉しいものの、困惑を隠しきれない。 「マルトー。気持ちはとても嬉しいが、俺一人でこれを食べるのは忍びないよ。他の皆はいつものメニューじゃないか」 「ギュ~ス、だから言ってるだろう?これは俺からお前への贈り物よ。お前さんは貴族様のせいで何処とも知れねぇところからこんな場所に呼ばれちまったくせに、 俺らでも出来ないような大手柄を取ったんだぜ。それが、俺にとっては何につけても嬉しいのよ。だからよ、あれこれ言わねぇで喰っちまえよ!」 バンバンとギュスターヴの背中を職人の掌で叩くマルトー。その表情は快晴のようである。周りに座る厨房の皆も同じように、ギュスターヴを見ていた。 ギュスターヴはスプーンを取って、スープから掬った。解けたテール肉とスープを盛り、口に入れた。 「…どうよ」 マルトーはギュスターヴの言葉を待った。料理人としての誇りを賭けた一皿である。 ギュスターヴは口の中で柔らかな肉とスープを良く味わってから、ゆっくりと嚥下した。外目に見ても判るほど。その間の沈黙が、マルトーには長く感じられる。 「……美味い。とても美味いよ。こんな美味いスープは初めてだ。こんなご馳走もらって本当にいいのかな」 微笑み混じりに応えたギュスターヴ。マルトーは感極まって涙交じりに笑った。 「おお!ギュ~ス!その一言が嬉しいぜ!俺はお前にキスしてやるぜ!」 「おいおい…」 厨房が暖かな空気で満たされた時だった。 『教える者、教えられる者』 そんな具合に、ギュスターヴは学院に奉公する平民達から『我らの剣』と呼ばれて祭り上げられた。 担ぎ上げられるのは人生経験として慣れた部類とて、本人としては掛け値なしに喜べないのが苦しい。 しかしながら、そんな周囲からの評価が上がっていく割に、ギュスターヴはあくまでルイズの使い魔らしく、ルイズの部屋角に寝泊りし、ルイズを起こしたり、 部屋を掃除してみたりするのが日課だった。初日に窘められて以降、流石にルイズも服をもってこい、服を着せろ、などとは言わなくなった。 言えなくなったというのが正しいかもしれない。 授業を受けながら、ルイズはぼんやりと己の使い魔である男のことを考えた。 (ギュスターヴ、私の使い魔をやってくれる、って言うのは素直に受け取るわ。とりあえず身の回りの世話はそれなりにするし、護衛としてはこの上ないくらい有能だし。 …でも…持て余すっていうのかしら?歩に合わない感じがしてならないのはどうしてだろう…) ルイズは自身が一人前のメイジではない、という自覚から逃げられない。それはギュスターヴの忠勤ぶりを見るほどに深まり、人知れずルイズの苦悩を深めた。 座学はともかく、実践が伴わないのが一層その事実をルイズに刻み付ける。 知らずに漏れるため息が何度目かになったとき、自分の机の横に誰かが立っているのに気付いた。 「授業はもう終わりましたよ。ミス・ヴァリエール」 「ミスタ・コルベール…」 講義を済ませ教室の後片付けをしようとしていたコルベールは、授業が終わっても席を立たずにいたルイズに声をかけたのだった。 「質問をしてよろしいでしょうか。ミスタ・コルベール」 「なんでしょう?」 「なぜ私の魔法は失敗しかしないのでしょうか。それに失敗するとなぜ爆発しかしないのでしょうか」 ルイズの記憶がさかのぼる。この質問は今まで何度、口にしたのだろうかと。たぶん初めは母に、ついで父に、一番上の姉に、二番目の姉に、そして家庭教師にも したはずだった。 二番目の姉以外は、着せる衣は変わっても、内容は同じだった。『練習が足らない』と。 だからいつからか、そんな質問をするのはやめてしまったのだが、ふと、この一見冴えない教師に問うてみたくなった。 コルベールはそんなルイズを見て、一度呼吸を吐いてから、応えるべく努めた。 「……そうですね。使い慣れない魔法、或いは属性が合わない魔法を唱えれば失敗します。それはメイジの上達過程では必ず起こりうることです」 「しかし私はどの属性の初歩を使おうとも失敗します…」 「判っていますよ。しかしですね、ミス。この世に属性が4つだけ、とは限らないでしょう?いえ、虚無を合せれば、5つですか」 驚愕がルイズを包む。 「驚かれましたかな?学院に勤める教師ともあろう者が、始祖より受け賜りし魔法が他にあると、六千年の間に未だ知られぬ属性体系が存在するのではないかと、 そんなことを言う」 「え…えぇ…」 「つまり、そういう考え方もあるということですよ。何故と思うなら、前提を捨てなさい。その方が考える選択肢が増えますぞ」 目元に皺を作ってコルベールは笑いかけた。 「同じ事が失敗の爆発にもいえますぞ。確かに四属性の魔法失敗は、不発動で終わるものです。であるなら、四属性を選択肢から除外するだけです。 そこから先の選択肢は、自分で見つけるものでしょう」 「……見つかるでしょうか」 「それは貴方次第ですぞ。少なくとも、失敗しか起きないからと周囲と壁を作っていた頃よりは、幾分かマシな質問をしてくれて、先生はうれしいですぞ」 教師らしからぬ毒気が混じった言葉にルイズはたじろぐ。 「…少しは生徒を労わってくれません?」 「いえいえ。向上心のない人こそ労わるものです。貴方は自分で進めるでしょう」 「…はい。頑張ってみます」 要はなりふり構っていられないのだ。失敗の爆発をコントロールして使おうとしたのもそういう意味では間違いではなかったのだな、とルイズは 少しだけ自分を前向きに見ることが出来た。 「助力は惜しみませんぞ。……っと、そうでした。ちょうどいい。ミス・ヴァリエール。貴方にお願いがあるのです」 「お願い…ですか?」 そう言うコルベールの目は、教師の目から研究者の目に変わっていた。 同じ頃、学院付属図書館の一角。 小さな机に連ねて二つの椅子に、一方には短く揃えた蒼髪の少女が、一方には背が高く立派な体躯の男が座り、二人で一冊の本を読んでいた。 「『雨はまだやみません』…と、これで読了だ」 「合格」 本を机に置いてギュスターヴはうんと背を伸ばした。 ギュスターヴがタバサに字を習い始めて暫く経つ。今日はテストと称して、500語ほどの短文を読むように指示されたのである。 「とりあえず、ある程度読めて、数字と名前くらいは書けるようになったかな」 机には秘かに持ち込んだ紙とペンが置かれ、ハルケギニア語で書かれた数字と、ギュスターヴと読める一語が書き綴られている。 生徒の上達振りを確認した風情のタバサは、机に出していた本を持って棚に向かい、新たな本を持って戻ってきた。 「読んでみて」 それは今まで読んでいた本よりも装丁が甘い。木を使った表紙ではなく、紙と革をあわせたような感じで、比較すると一段下がる格式のように見える。 ギュスターヴは本を受け取り、表紙に書かれた題名を読み取ろうとした。 「ん……『十の角の家の倒し方』?」 首を振るタバサ、ギュスターヴから本をとり、指先で題名をなぞりながら応えた。 「『十角館の殺人』と読む。文芸が読めて理解できれば、あとは書くだけ」 教師としてのタバサは結構なスパルタであった。 陽が徐々に傾いてきて、図書館の人もまばらになってきた頃合に、ギュスターヴとタバサは図書館を出た。 行く先は広場の木陰。以前ギュスターヴの短剣を披露した場所である。 図書館の受付で預かられていたデルフがカタカタとしゃべりだす。 「しかしちびっこよー。おまえさんメイジの癖に剣使いたいなんてかわってるよなー」 タバサの手には鞘に収まったままの短剣が握られ、だらりと地面に向かって剣先が下がっている。 タバサは最初、剣のからくりを知りたくてギュスターヴの教師を買って出たわけだが、結局、剣自体には何のからくりもないと本人にも言われてしまった。 ならば、本人からその剣を習うことで何か秘密を知ることが出来るのではないか、というのがタバサの発想だった。 それは己に来るべき時のための力を身につけさせるという意味でも悪くない考えだった。 元々只で字を教えてもらうのに引け目があったギュスターヴは、タバサの提案を飲んだ。後にルイズにも確認を取ったが「あの子もかわってるわねー」と言ったきりで 特に咎めもしなかった。 しかしタバサが剣を使うにはいくつか問題があった。 まず、剣を振れないのだ。 普段タバサが使う杖は長大な代物だが、中抜きがしてあるため見た目以上に軽く、素材の木も丈夫な為問題はないのだが、ギュスターヴの短剣は 40サント程度の刀身とはいえ殆ど装飾のない鋼で出来ているため、実は見た目よりぐっと重いのだ。 そんな状態で、ギュスターヴがまずタバサに科した練習は、『剣に慣れる事』だった。 鞘にいれたまま短剣を貸してもらい、持つ。自分で鞘から抜いて構え、鞘に戻す。その動作がある程度自然に出来るくらいになるまで、毎日やって10日掛かった。 次に『剣を構える事』を現在、練習としてタバサはこなしていた。 本来片手で構える短剣を、タバサは小さな手先で両手に構えて立っている。 それをギュスターヴの指示する順番に構えを変えていく。上段、中段、下段、払い、けさ、突き、という具合に。 10セットもやっていると、タバサの額に汗が浮いてくる。雪風の二つ名の少女が熱い息を吐きながら紅潮した肌に汗を浮かす。 メイジが剣を握って四苦八苦している様子を広場の他の場所にいる生徒達は奇妙な目で見ていたのだった。 目標一日100セット。その合間に何度か休憩を取っていると、広場の出入り口から二つの人影が入り、木陰に向かって歩いてきた。 「やっぱりここでやっていたのね…っていうか、本当に剣習ってるし」 ルイズはギュスターヴの前で短剣を握って立っているタバサを見た。 「見所あるの?」 「人前で言う事じゃない。…と、コルベール先生、何か」 「そうよ、あんたにお願いがあるんですって」 ルイズがつれてきたのはコルベールその人だった。まだ天空にある太陽の光が広い額に照り付けている。 「はい。ミスタ・ギュス。以前から興味がありました、貴方の鎧についてなのですが」 「俺の鎧?」 「えぇ、是非ともお貸ししてくれないかと」 ギュスターヴは要領を得ない。 「何故俺の鎧などを」 「貴方がサモン・サーヴァントでこちらに来られた時に検分してからずっと興味が有ったのです。あれはトリステイン、いや、ハルケギニアの職工の手では 作られたものではございませんな」 瞬間、走る緊張。ギュスターヴがとてつもなく遠くからやってきたのは周知であるが、それが異界『サンダイル』というところであるのを知るのはタバサとルイズ、 それにオスマンだけである。 「えぇ、まぁ」 らしくなく曖昧に答える。 「ですので、後学のためにどうか分析してみたいのです」 「はぁ……。ルイズが良いというなら、俺は構いませんが」 困惑の混じった視線がルイズに向けられる。ルイズはギュスターヴに近寄って小声で話す。 「鎧見せたらあんたが異世界の人間だってばれるんじゃない?」 「どうかな…素材はともかく、出来はありふれた鎧なんだが」 「何処で作られたかって聞かれたらどうするのよ」 「自分で作ったって言えばいいだろ。本当のことだし」 ひそひそと話し込んでいる使い魔と主人を、木陰に立つタバサとコルベールが観察している。 タバサとしては、ギュスターヴの素性があまり明らかにならないほうが個人的な利益になる。だからむやみに情報が漏れるような行動は取って欲しくない…という 心境だが、積極的に相談に入らず、外面的に第三者を決め込んだ。 「どうでしょうか」 コルベールが返答を待っていた。ギュスターヴはルイズを一度見てから答えた。 「…構いませんよ。ルイズの部屋に置いてあるんですけど、部屋主にとっては邪魔だろうし」 ニヤついた顔でギュスターヴがルイズを覗くと、ルイズは眉間を寄せてそっぽを向いてしまった。 コルベールはそれらに気付かず、まるで子供のように喜んだ。 「そうですか!ありがとうございます!では、今から早速受け取りに行きますので。ミス・ヴァリエール、よろしいですかな?」 「え?あ、はい」 「では、失礼!」 「え?えぇ?」 その場からコルベールはルイズの手を引っつかんで退散してしまった。部屋主同伴であれば寮を歩き回っても一応文句は言われまい。 そしてその場にはギュスターヴとタバサ、そして木に立てかけられたデルフが残った。 「…いいの?」 「ん?」 「鎧」 「そうだぜ相棒。お前さん異界人だってばれたら多分やばいぜ。下手したら教会とか国とかに捕まるかもしれないぜー」 ロマリア皇国を頂点にハルケギニアに普及しているブリミル信仰は、始祖と魔法を絶対とするものだ。ここ、トリステインを含め、始祖から王権を与えられた国は その信仰と価値観から国が為っている。異邦人で、魔法と始祖に畏敬を持たない人間がいれば、それは先住のエルフや亜人と同じ、外敵と見られるかもしれない。 「そうだな…あの鎧一つでわかる事はそんなにないだろう。形は珍しいかもしれないが、こちらにだって鉄の鎧はあるだろう?」 「そりゃそーだけどよー…」 「それに」 「それに?」 「コルベール先生は、多分俺がサンダイルから来たって言っても、教会とかに告発するような気がしないんだよ」 「なんだよそれ…」 呆れるデルフ。ギュスターヴは立ち上がると、デルフを鞘から抜いて、瞬くように構えて振った。一閃、二閃、三閃、四閃…。 「勘さ。あの人はそういうことはしない、っていう、俺がそう思っただけさ。…さて、タバサ。今やったみたいに出来るのが、当面の目標だ。頑張れよ」 「わかった」 タバサは静かにうなずいた。その口元が仄かにほころんでいるのだが、ギュスターヴは果たして、少女のわずかな変化を理解できたのだろうか。 木漏れ日の揺れが、デルフと短剣を煌かせている。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページ風船の使い魔 彼、ギーシュは焦っていた。こんな風船みたいな使い魔、自分の自慢のゴーレムなら 一発当てれば抵抗しなくなって後はルイズが来るまでジワジワトいたぶれるだろうと思っていた 実際抵抗という抵抗はしてこなかった・・・・が、こちらの攻撃が一発も当たっていない だからといって相手が必死になって避けているのか・・・といえばそうでもなく余裕の表情で避けているのだ これでは完全に自分が遊ばれている・・・という状況なのだ 実際のところは一枚の羽毛に対して攻撃するかのように自分の攻撃の風圧で相手がフワフワと避けているようなのだが それにしても一発ぐらい入ってくれてもいいのだが何故か一発も入らない むきになった彼は薔薇の花を振り更にゴーレム・・・ワルキューレを数体呼び出す そして2体のゴーレムがクラウドを掴む・・・剣筋はヒョイヒョイ避けていたのに何故かあっさりと捕まってしまう、コレも風船ゆえか・・・ 動けなくなったクラウドにワルキューレの剣筋が振り落とされる・・・と言う時にやっと広場にルイズが駆け込んでくる 「クラウド!」 「遅かったねミス・ヴァリエール、今君の使い魔に止めを刺すところだよ」 「やめて!お願いだから!!」 周りの観客はとどめ・・・?と聊か疑問に思っていたがこの絶体絶命の状況確かにとどめか・・・と納得もしていた そしてルイズが静止を訴えている中ワルキューレの剣筋が完全にクラウドを捉えた 間違いなくワルキューレの剣筋はクラウドを貫いた・・・・筈だった 「プワ?」 「何?」 見るとクラウドに怪我は無く別に何てこと無いという顔をしている 「フッ、どう避けたのか知らないけどそう何度も避けれはしないだろう!!」 再び、いや何度もワルキューレの剣筋がクラウドを切りつける、切りつけている筈なのだがクラウドは何とも無い顔を変えなかった まるで雲を切っているかのような感触にギーシュは不気味さを覚え一旦離れる 「剣が効かない・・・?一体どうなっているんだ?」 剣が効かない・・・つまり煙のような体なのかはたまたアレは幻なのか、しかし2体のゴーレムが横から押さえつけているところを見ると確かに実体は存在している・・・ と思った直後、クラウドは2体のゴーレムの手の中から抜け出した。 どうやって抜け出した!?と再び掴みにかかるが今度は実体が無いのかいくら掴もうとしてもすり抜けてしまう そしていい加減相手が自分に敵意を向けていることに気づいたクラウドはギーシュに対して敵意の込めた目で睨み付ける その魂の篭っていない・・・一片の光も無い瞳に恐怖を感じたギーシュは7体全部のワルキューレをクラウドにぶつける・・・がやはり効果が無いようだ 「な・・・何だって言うんだ!?この使い魔は!?」 「クラウド・・・貴方・・・?」 その時クラウドの体から何ともいえない生暖かい風が吹く・・・ その生暖かい風は広場一帯を包み込み観客達も巻き込んだ 生暖かい筈なのに寒気がする、背筋がゾクッとする、ハッキリ言って気持ち悪い。 膝を突く生徒や嘔吐しそうになる生徒も居るぐらいだ 『あやしいかぜ』、相手に対する追加効果は無いが一定の確率で自身の攻撃・防御・特殊攻撃・特殊防御・素早さを上昇させるゴースト攻撃 物理的ダメージは低く魂を持たないゴーレムに効果は無いはずなのだが何故か目の前のゴーレム達が崩れ去っていく 「なっ!?そんな僕のゴーレムが!?」 ギーシュが慌てて花弁を振るう・・・がそれは出来なかった 何故かと言うと先ほどの妖しい風で花弁・・・ギーシュ特有の杖が萎れていた 「何!?何で皆苦しんでるの!?」 周りのもの全てを巻き込んでいるはずの妖しい風だがクラウドの主たるルイズだけは巻き込んでいないようで 彼女自身はバタバタと倒れていく周りの生徒の異常な光景にこれまた恐怖していた 観客の中に青い髪の小柄な少女、タバサも混ざっていたが彼女はガタガタと本気で震えていた アレはあんな可愛い顔をしていながらとんでもない事をしている・・・ 何よりこの生暖かく寒気がするという矛盾をはらんだ風、これは色々な書物で表記されているある物に酷似している そう、幽霊が現れる時に共に発生する『おどろおどろしさ』とでも言う不気味な風・・・ その事に気づいた直後、タバサは全力でその場から逃げ出していた 妖しい風のダメージによって膝を付くギーシュ、それにクラウドがフヨフヨとゆっくり近づいてくる その瞳には何も映っていない、見ているだけで自分の魂が引き込まれそうになる 「ヒィッ!?!?く、来るなああぁぁぁ!!!!!」 使い物にならなくなった杖をブンブンと振る、が当たっている筈でもスカスカとすり抜けてしまう 再び恐怖に駆られ奇声をあげながら魔法使いとしての証でもあるその杖を捨てて足元に転がっている石を投げつける 苦しみながらもまだ見ている観客達は「ああ・・・終わったな」と思っていた、ギーシュの敗北という意外な形で・・・ しかしギーシュの投げた石はクラウドに当たった 「プワ!?」 へ・・・?と呆気に取られた顔をするギーシュ、涙を流しながら石の当たったところを痛そうにさするクラウド 試しにもう一つ石を投げてみる・・・再びクラウドに命中、プワッ!と痛そうな声を上げる 「フフハハ・・・ハハハハハハ!!そうか!石に弱いのか!!」 急に強気になるギーシュ、そして足元にある石を次々と投げる、頭が暴走しているギーシュの投げるそれは数発しか当たらなかったがクラウドには十分致命傷である 「ちょっ、ギーシュ!!それが貴族の戦い方!?完全に蛮族のやり方じゃない!!」 「うるさい!ミス・ヴァリエール!!杖もこうなってしまった以上、使える物は何でも使う!貴族に負けは許されないのだから!!」 「く、狂ってる・・・」 実際今のギーシュは狂っていた、先ほどから今まで味わったことの無いような屈辱と恐怖、その二つを存分に味あわされて彼の中で何かが壊れてしまっていた しかし一つの石が当たった時、風船らしからぬカシャンと高い音がした と、同時に嗅ぎなれた匂いがギーシュの鼻腔内に届く 「これは・・・モンモラシーの香水?」 そう、この決闘の原因にもなったモンモラシーの香水である、まだクラウドが持っていたのだが先ほどの石が一つビンに当たってしまい割れてしまったようだ それが拙かった、一つは先程まで狂っていたギーシュがその匂いで意識がハッキリと戻ってしまったこと、 そしてクラウドの持っていた持ち物が無くなったという事・・・・その二つである 意識が戻ったギーシュはそれでも投石攻撃をやめなかった、見ればもうボロボロであと2~3発ぶつければ勝てると思ったのだ しかしその石はクラウドに当たることはなかった、意識がハッキリとして狙って投げた石がである 「へ・・・・?」 思わず口から間抜けな声が上がる、しかし目の前の風船が有り得ない速度で動いているのでそれはまた仕方の無い事とも言えよう 軽業・・・フワンテ属しか持たないその特性は持ち物を失うことで発揮され自身の素早さが2倍になると言うものである そのまま先程の風船のような間抜けな動きでなくなったクラウドは一瞬でギーシュの眼前まで詰め寄った 「うひゃぁ!?!?」 ギーシュが理解するまえに目の前に現れるクラウド、必死で石を投げようとするがもう既に石は投げつくしてしまった ギーシュの精神はもはや限界に達していた、がそれと反比例するようにルイズの心は高ぶっていた 自分の使い魔が貴族相手に圧倒しているのである、それは心も高揚するだろう そして今ギーシュにとどめを指さんとするクラウドにルイズは精神がハイになっていた 「やっちゃえ~!!クラウドー!!!」 それが拙かった。 クラウドは今の命令をしっかりと聞いて実行に移したのである、自身の最強の技で 早い話が大爆発である。 結果的に言うと決闘はクラウドの勝ち・・・の筈だったのだがお流れになってしまった。 広場は謎の大爆発に包まれ観客をも巻き込んで崩壊したのである。 その結果ルイズが二人の決闘に水を差したのだ・・・と 「私は何もしてない~!!!」と彼女は語るが誰も信じる者はいない・・・ルイズがまた爆発させたんだと信じて疑わなかったのだ ギーシュと使い魔の決闘は引き分け・・・という事になったが当のギーシュは完全な敗北感に打ちひしがれていた そしてクラウドは大爆発したにもかかわらずケロッとした顔でルイズの傍らをフワフワと浮かんでいた 前ページ次ページ風船の使い魔
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ギーシュ・ド・グラモンは武門の生まれである 父も、長兄も次兄も三兄も、常に戦の先頭に立って活躍している 「生命を惜しむな、名を惜しめ」とは 幼い頃から父に聞かされてきた家訓であった そして、今ここで彼は 「…ぐ、ううっ」 腰が引けていた ために一歩出遅れたのが彼の幸運であったのだろう 召喚したての使い魔、大モグラ(ジャイアント・モール)のヴェルダンテを あのおかしな平民にけしかけずにすんだのだから 向かっていった使い魔のことごとくがブッ飛ばされたのを見て 彼のファイティングスピリットはさらにくじけていた (冗談じゃあないぞ… なんなんだあれはぁぁぁ~~ 戦列艦が服着て歩いているのかぁぁ~~ッ 無理、絶対無理ッ あんなの勝てない、近寄りたくもないッ) 心の叫びが顔に出る 必死に隠したところでバレバレ 彼はそういう男だった だが そっと後ろを見る おびえ、ふるえる愛しい女子生徒達が告げていた 今こそグラモンの武勇を見せよと 「く、く、くぅッ…」 (くそぉぉ~~ッ 行くしかないのかぁ~~ッ ぼくが一体何をしたっていうんだぁ~~ッ) 彼はナンパ男だった しかも無類のミエッ張りだった ドバァッ しかし、流れる冷汗はやっぱりウソをつかなかった 足下の震えは武者震いだと自分で自分に言い張っていた 「およしなさいな」 後ろから呼ばれて振り向くと、額の汗がボダタァッと芝生に滴った そこにいたのは褐色肌のボンッキュッバンッ キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー グンバツのボディーを持つ女ッ!! 「ととと止めないでくれたまえよ、ミス・ツェルプストー ご婦人には、きッききき危険すぎるッ」 「逃げなかったのはホメてあげるけど、あなたのそれは『無謀』よ、タダの…」 「ぶっ侮辱はやめてもらおうッ!! このボクとて武門のはしくれッ 惜しむ生命などッ」 「はいはい、ゴタイソーな前口上はいいから下がってなさい …勝ちたいんでしょ?」 「あるのか勝算がッ!?」 「落ち着いて観察なさい」(つーかナンもカンガえてなかったのねアンタやっぱり) キュルケは鳥の巣頭を指し示す 生徒用の、教鞭状の魔法の杖の先端で ドッ ガズッ ドバ ちょっとだけタフな使い魔達が最後の戦いを挑んでいたが 全員コロリと昼寝するのは時間の問題だった 「見てわからない? あいつを中心に半径2メイルか3メイル」 キュルケの眼には見えていた 鳥の巣頭を中心とした、キレイな球形のシルエットが 最初にたくさん襲いかかっていったとき すでに観察を終えていたのだ 「アッ!!」 ギーシュにも、今見えた 鳥の巣頭がわざわざ相手に「走り寄った」のをッ 「1(アン)」 人差し指を立て、数字の1を示すキュルケ 「あいつは遠くの敵を殴れない」 次に別方向を示す まずは衛兵の方向を、続いてルイズの胸元を 衛兵の兜は頬と醜く混ざり合い、ルイズのマント留めもまたオカシな形に変わっていた キュルケは人差し指に加え中指を立てる 「2(ドゥー)、あいつに殴られたものは変形する」(リクツはゼンゼンサッパリだけど) 「ちょっと待て、ミス・ツェルプストー」 ブワァッ ギーシュの冷汗はスゴイ勢いで復活していた 改めて鳥の巣頭が恐ろしかった 「それは、つ、つまり……こういうことじゃあ、ないのかい 『殴られたら終わり』」 「ええ、その通り でも、『殴られなければいい』とも言えるわよね」 キュルケも決して恐ろしくないわけではなかった だが彼女の中で勝算は限りなく100%に近づいていた 「『殴られなければいい』だって? キミの目は…フシ穴なのかい?」 「あら、どうして?」 ビシイッ ギーシュは鳥の巣頭を指さしたッ 「あいつを見ろよ 怒ってるぞ――ッ 女王陛下のドレスの裾を踏んづけても気づかないくらい怒ってるぞ――ッ」 ムッ!? 鳥の巣頭は直感的に気がついた 誰か自分を指さした 笑われたような気がする ムカつく ぶっ飛ばす!! ズザザッ 駆け足ッ ギーシュの目の中で鳥の巣が次第に巨大化してくるッ 「ま…待て、こっちに、こっちに来るぞッ あんなのをキミはどうするつもりなんだぁぁ―――ッ」 「いいから落ち着きなさいな、みっともない…」(どうみてもアンタのせいでしょアンタの) 「これが落ち着いていられるかッ 父上、母上、兄上、ああっ先立つ不孝をお許し下さいッ」 ギュッ 胸元に指を組むギーシュは始祖プリミルの元に予約席を取りに走っていた ドドドドドドドドド 迫り来る死神 その名は鳥の巣ッ キュルケは他人事のように赤い髪を掻き上げ、 魔法の杖の先端を右手人差し指でピンピン弾いていた 「あなた、そんなにアレが恐ろしいの」 「恐ろしいさッ 怖いに決まってるだろ――ッ」 「でも安心なさい、もう恐れることはないわ」 「えッ なんでッ!?」 ビククゥッ 思わず縮めた身を伸ばし、キュルケの顔を見るギーシュ 自信満々の表情に今すぐ答えを求めていた 「なぜなら」 「な、なぜなら?」 グワッ キュルケの杖がピンと跳ねた瞬間に炎の塊が飛んでいく 鳥の巣頭に寸分違わず飛んでいく 「鳥の巣頭」に飛んでいく そして ボソァッ ボロッ ドザァッ 「…3(トロワ)!!」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「私がもっと怒らせるからよ、ギーシュ・ド・グラモン」 炎の塊は頭上をそれて飛んでいった 「鳥の巣頭」の前半分が、かすれた炎にえぐり取られて消えていた 今やそれは鳥の巣ではなく、前に飛び出たボンバーヘッドであった 「…う、うう、ウソ、ちょ、マ、マジ、そ、そんな ば…ば、ば…バカなぁぁ―――――ッ!?」 呆然とする鳥の巣男を前に、ギーシュの絶叫だけが響いた 「さぁて―――手合わせ願おうかしら? この、微熱のキュルケがッ」 ドンッ 決闘の手袋を叩きつけるがよろしく、 キュルケが前に、進み出たッ 3へ
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前ページ次ページ無情の使い魔 「待ちなさい!」 そこへやってきたのは、今まで教室で泣き崩れ、今になって食堂へとやってきたルイズだった。 騒ぎの原因は他の生徒の話によると、ギーシュが落とした香水の瓶をシエスタが拾い、それによって彼が一年の女子と同級生のモンモランシーとで二股をかけていたのがバレてしまった。 そして、その責任を瓶を拾ったシエスタに擦り付けようとしたら桐山が介入し、あろう事かギーシュを殴り倒してしまった事でここまで騒ぎが発展してしまったという。 「ギーシュ! 馬鹿な真似はやめて! 学院での決闘は禁止されているはずでしょ!?」 「それは貴族同士の話だよ。使い魔とではない」 鼻で笑うギーシュはさらに続け、 「君の使い魔の躾がなっていないから、この僕が代わりに躾けてやろうというんだ。少しは感謝してもらいたいね」 そう言って食堂から去っていった。 唇をかみ締めるルイズは未だに平然と立ち尽くしている桐山の方を振り返り、彼に詰め寄る。 「あんた、何を勝手な事やってるの! 貴族であるギーシュを殴り倒すなんて!」 「あ、ああ……キリヤマさん。申し訳ありません……わたしのせいで、こんな事に……」 ルイズが喚き散らし、シエスタが泣き崩れて詫びているがやはり桐山は全くの無表情である。 すると、桐山は持っていた本をシエスタに手渡す。 「ヴェストリの広場はどこだ?」 彼が発した言葉にシエスタは蒼白になり、首を横に振る。 「いけません、キリヤマさん! 貴族と決闘なんかしたら、殺されてしまいます!」 「主人の許可もなく、そんな事をするのは許さないわ!」 しかし、桐山はすぅと目を閉じ、二人を無視して食堂を後にしていく。 慌ててその後をルイズは追った。 「ちょっと、どこへ行くの!」 「ヴェストリの広場を探す」 即座に返され、ルイズは唖然とした。桐山はやる気だ。 彼は怒りや屈辱などといった感情を抱いている訳でもない。なのに、何故決闘を受けようとするのか。 「貴族に平民が勝てる訳ないじゃない! そんな事は許さないわよ!」 桐山の正面に立ち塞がり、必死に叫ぶルイズ。 メイジである貴族には魔法があるのだ。対して、桐山は明らかに平民。勝算は無きに等しい。 「ちょっと……!」 桐山はルイズの脇を通り、さっさと立ち去ってしまう。 桐山は他の生徒達が自分を見つつ血相を抱えて移動するのを見て、 その方向からヴェストリの広場の場所を勘で推測し、そこへと辿り着いていた。 「諸君、決闘だ!」 ヴェストリの広場にギーシュは薔薇の造花を模した自らの杖を掲げ高らかに宣言をする。 集まってきた群集から歓声が湧き上がる。 「逃げずに来たとは、その勇気は褒めてやろう!」 目の前に佇み、こちらを見つめてくる桐山に杖を突きつけるが、やはり無表情のままだ。 「何とか言ったらどうだね? ……いや、平民に貴族の礼儀を期待する方が間違っているか」 鼻で笑うギーシュ。 恐怖で声が出ないのか、とも思いたいが残念だがそうではなさそうだ。では、何も考えていないのか。 だが、どうであろうと決闘は続ける。そして、貴族の力を平民に思い知らせてやるのだ。 「あんたの使い魔、大丈夫なの?」 やってきたルイズの隣に立つのは、寮生活において隣部屋同士であるキュルケだった。 「大丈夫な訳ないでしょ。……もう、何であんな決闘なんか受けるのよぉ」 額を押さえ、ルイズは顔を歪めていた。 「でも彼、とても落ち着いてるわね」 ルイズから見れば落ち着いている、というよりは何も考えていないようにも見えた。 「だからって、平民が貴族に勝てる訳がないでしょ!」 ルイズの願いとしては、桐山がわざと負ける事によりそれでギーシュが満足してくれる事だけだった。 今、ここで使い魔を失う訳にはいかない。 使い魔が負けたと、恥をかくことになってもそれだけは避けなくては。 「あなたはどう思う?」 キュルケは自分の脇で無関心そうに本を読むタバサに語りかける。。 「結果をは見ないと分からない」 (彼……ただの平民じゃない) タバサはちらりと桐山へ視線を向けていた。 先日、ルイズが彼を召喚した時から彼から異様な威圧感を感じ取っていた。 恐らく他の生徒達はそれで恐怖などしか感じられていないだろうがタバサは違った。 (……血の臭いがする) それは祖国からの過酷な任務をこなし、時には血を流し、実戦経験が豊富なタバサだからこそ嗅ぎ取れるものだった。 あの少年は、その手を血で濡らしている。人を、殺めた事がある。 彼がここに召喚される前、一体何をやっていたのかは知る由もない。 だが、確実に彼は自らの手で、しかも事故などではなく実戦で人を殺めている。 それも一切の躊躇いも、容赦もまるで無く。 (わたしと……同じ?) 「雪風」の二つ名を持つ自分よりも遥かに冷たい、一切の感情が宿っていない凍りついた瞳……。 まるで人形のようなその瞳が、自分とそっくりに思えた。 学院長室へとやってきていたコルベールは学院長であるオスマンと会話をしていた。 春の使い魔召喚の際に、ルイズが平民の少年を呼び出し、そして彼に刻まれたルーンが見た事がないものであったことを話していた。 オスマンは、コルベールが描いたルーンのスケッチを見つめた。 「あの少年の左手に刻まれているルーンは……伝説の使い魔『ガンダールヴ』に刻まれていたモノとまったく同じであります……」 「つまり、君は彼が伝説の使い魔、『ガンダールヴ』であると、そう言いたいのかね?」 「……まだ憶測の域を出ませんが、その可能性は大いにあります……」 普段なら何かを新しいものを発見すれば子供のようにはしゃぎだすはずのコルベールであったが、今度ばかりは様子がおかしい。 何やら、酷く思い詰めた様子だった。 「どうしたのだね? そんな顔をして。お主らしくないではないか」 「……いえ、何でもありません」 苦々しい表情のままコルベールは首を横に振る。 何か訳ありのようだ。オスマンは問いただすのを中断する。 「ふむ……。――誰かね? 入りたまえ」 その時、コンコンッっとドアがノックされた。 扉の向こうから現れたのは、オスマンの秘書ミス・ロングビルだった。 「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるようです。 教師達は、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」 「たかが子供の喧嘩を止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい。 ……で、誰が暴れておるのかね?」 「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」 「あのグラモンとこのバカ息子か。血は争えんのう。……それで? 相手は誰じゃ?」 「それが……、ミス・ヴァリエールの使い魔のようです」 その返答とともにコルベールの顔が蒼白になった。 「いけない……! すぐに止めなくては!」 「どうしたと言うのかねミスタ・コルベール、そんなにあわてて…さすがにグラモンの馬鹿息子も平民を殺したりはせぬよ」 そうまくしたてるコルベールをなだめながらオスマンは言う 「……使い魔のことを言っておるのです。……あの少年は、普通ではない」 人を殺める事に何の躊躇もしなさそうな無情の瞳。 彼が誰かと争わなければ良いと願っていたのが早々に打ち砕かれる。 それで誰かを傷つけでもしたら……。 「私が止めてきます」 意を決したコルベールは踵を返し、学院長室を後にした。 「それで……本当によろしいのですか?」 「うむ。まあ、放っておきなさい。子供同士の喧嘩じゃ」 と、言いつつ彼女の尻に手を伸ばそうとするオスマン。 手が触れる寸前で、ロングビルの肘鉄が彼の頭に叩き込まれていた。 「僕はメイジだ、だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね」 しかし、やはり桐山は無言である。 構わずにギーシュは杖を振り、造花の花びらを一枚地面に落とす。 零れ落ちた花びらは光と共に、甲冑を纏った女性を模したゴーレムへと変化する。 「僕の二つ名は「青銅」のギーシュ。よって、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手をするよ」 桐山はワルキューレを見て、くくっと小首を傾げていた。 ギーシュが杖を振ると、ワルキューレは桐山に向かって前進し始める。 桐山はガチャガチャと音を立てて走りこんでくるワルキューレを、そしてギーシュを交互に見比べていた。 (ふっ……一瞬で片付くな) ボーっとしていて隙だらけに見える桐山にギーシュが勝利を確信して笑みを零す。 だが、それだけではこちらの気が済まない。わざと急所を外して少し甚振ってやらねば。 自分の顔をあれだけ思い切り殴った代償を払ってもらう。正直、まだズキズキと痛む。 ワルキューレが拳を突き出し、それは桐山の顔面を強打するはずだった。 (何……!?) 確かに、その一撃は彼の顔面に入った。 しかし、桐山は顔を殴られた方向に向かって動かす事で衝撃を受け流し、全くの無傷だった。 「どうしたギーシュ!」 「さっさとやっちまえー!」 その光景を目にした多くの生徒達は桐山が無傷である事に一瞬、唖然としたが一部からそのような野次が飛ぶ。 ワルキューレはギーシュの命令により、次々と連打を繰り出す。 パンチが、蹴りが、目の前にいる平民を地に伏させるべく容赦なく繰り出されていく。 (……何故だ?) ギーシュはその光景を見て、顔を顰める。苛立ちが湧き上る。 (何故、奴は無傷なんだ?) 桐山はワルキューレの猛攻を常人とは逸脱した絶妙な、そして優雅な動きで次々と回避している。 その際、彼はかすり傷一つも負ってはいない。 そして、その間にも彼は相変わらずの無表情だった。 「……な!」 ギーシュは目を疑った。 何が、起きたのだ。 桐山がワルキューレの攻撃を体を横へ捻って回避した途端、ズガッという音と共に突然ワルキューレが大きく吹き飛ばされていたのだ。 10メイルは吹き飛ばされたワルキューレは群集達に向かって飛んでいき、彼らは慌ててそれをかわした。 そして、学院の壁に激突し、バラバラに崩れ去る。 今まで桐山の神がかりな回避に静かだった群集が、今度は完全に沈黙する。 「な、何が起きたんだ」 「いや……平民が攻撃をかわした途端に……」 「な、あいつ……何をしたの」 今、目の前で起きているのは現実だ。 先程からルイズは唖然とし、口を開けていた。 平民であるはずの桐山が常人離れした動きで攻撃をかわし、挙句の果てにゴーレムを吹き飛ばしてしまったのだ。 何をしたのか、全く見えなかった。 (あいつ……あんなに強かったの?) 驚きと共に、何故か嬉しさが生じてくる。 極めて寡黙で雑用くらいしかできない平民だと思っていたのが、まさかあれ程にまで強いなんて。 決して、役立たずな使い魔ではなかったのだ。 「……ほう、平民にしては中々やるな」 一瞬、口端を痙攣させて笑ったギーシュは杖を振り、今度は七体のゴーレムを召喚する。 「……僕も調子に乗りすぎていたようだ。本気でいかせてもらう!」 剣や槍、メイスなどで武装したワルキューレ達が佇む桐山を取り囲み、一斉に攻撃を仕掛ける。 だが、桐山の姿は忽然とその場から消えていた。 「……ど、どこに?」 ギーシュが狼狽する中、ワルキューレの一体が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。 桐山はいつのまにかワルキューレが手にしていた剣を握り、囲みの外へと出ていた。 ワルキューレ達が次々と桐山に突進していく。 桐山は手にしていた剣を投げつけ、二体をまとめて串刺しにした。 倒れようとするワルキューレの一体へ瞬時に駆け寄り、その手から今度はメイスを奪い取る。 体の遠心力を活かして振り回し、一体を殴打。さらにもう一体へと衝突させた。 その背後、左右からワルキューレが武器を振りかぶって襲い掛かる。 しかし、振り下ろされた武器は桐山ではなく、彼が手にしていたメイスを捉えていた。 軽やかに蜻蛉を切り、瞬時にしてワルキューレの背後へと着地していた桐山は一体の背中に掌低を繰り出し、吹き飛ばす。 そして体を思い切り捻り、落ちていたメイスを再び拾って最後の一体の頭へと叩き付けた。 この時、光るはずであった彼の左手のルーンは、一切の光を発さず力を発揮してはいなかった。 (……すごい) あまりにも常人を逸脱した桐山の戦闘に、タバサは感嘆とした。 どんなに鍛えられた手練のメイジでもあそこまでの動きをとる事はできない。 多くの修羅場を巡ってきた自分でさえ、彼の動きは初めの一瞬だけを見るので精一杯だった。 そして、その間に垣間見ていた彼の表情は、全くの無だ。 焦りも、恐怖も、余裕も、何一つ伝わってこない。 まるで今、行っている戦闘ですら彼にとってはただ機械的にこなしているだけのようにも見え、戦慄する。 そして、タバサは感じ取った。 (……やっぱり、わたしと同じ) 「そんな……馬鹿な……」 自分の精神力の全てを注ぎ込んで作り出したゴーレムを全滅させられ、ギーシュは力なくへたり込んだ。 彼は、ただの平民。そのはずだ。 なのに、こんな事があって良いのだろうか。 あり得ない光景にギーシュは恐怖する。 「ひっ……」 ちらりと、桐山はギーシュへ視線を向けてきた。 戦闘中も全く変化のなかった表情、瞳――それを目にしたギーシュは蒼白する。 そして、即座に感じ取る。 (こ、殺される……!) 桐山はギーシュを見つめていたが、しばらくするとつかつかと歩き出し、向かってくる。 ガクガクと震えるギーシュは尻餅をついたまま、後ろへ下がる。 「ま、まいった! 降参だ!」 しかし、桐山の足は止まらない。 何故、止まらない。 ギーシュは自分がまだ杖を持っている事に気付き、それも放り捨てる。 だが、桐山は杖に目もくれる事も無く止まる様子は全くない。 何故だ。何故、止まらない。 自分はもうワルキューレを作り出す事もできない。悔しくはあるが降参もした。杖も捨てた。 それで勝敗は決まったはずだ。なのに―― そして、はたと気付く。 自分は彼に、その事を言ったか? 貴族同士の決闘の勝敗は、本来ならどちらかが降参するか杖を落とされた時。……しかし、今回はその事を一度も口にしていない。 この決闘、自分が一方的に勝つものだと思い込んでいた。だから、ルールの説明なんてしていなかった。 平民に貴族のルールを説明しても、意味などないと思っていた。 だがそれでも、自分はもう戦えない。 いくら平民の彼でもそれに気付けない程、愚かではないはず。 なのに、何故止まらない。 (逃げないと……逃げないと……) しかし、恐怖に全身を支配され、もはや立つ事はおろか動く事さえできないギーシュ。 突然、腹部に突き刺さるような激痛が走った。 「う、ぶ――」 ギーシュはその場で嘔吐し、胃にまだ残されていたものを吐き出す。 それを見ていた生徒達が悲鳴を上げる。 (痛い! ……何で、こんなに痛い! この決闘で、彼からは何も受けていないのに!) 腹を押さえて蹲り、悶え苦しむギーシュ。 「……ある男が、健康診断を受けた」 突然、立ち止まった桐山が口を開き始める。 「その男が帰りに、車で子供を轢いた。男は数分と経たない内に腹部に激痛を覚え、病院で再検査を受けた」 (何を、言っている) 「検査の結果、男は重度の胃潰瘍と診断された。もちろん、先の検査では健康そのものだった。 男は短時間で胃に穴が開いていた。……つまり。 ――極度の恐怖や緊張で、人間の体はすぐに壊れる」 何を言っているのか、恐怖に支配されるギーシュに理解する事はできない。 ただ、このままでは自分が殺されてしまう。それだけしか考えられなかった。 そして、桐山が目の前まで来た所で意識を手放した。 「もうやめてっ!!」 白目を剥いて気絶するギーシュの前に立つ桐山の背中に、悲鳴を上げて飛び掛るルイズ。 「決闘は終わったの! あんたの勝ちよ! もう戦わなくてもいいの!」 「どうすれば終わる」 (え……?) 「決闘は、どうすれば終わる」 「何を……言ってるの?」 「俺は決闘が終了する条件を聞いていないんだ」 「だって、ギーシュが散々降参していたじゃない!」 意味不明な言葉にルイズは喚く。 「それが終了の条件であると、彼は言っていない」 確かに、ギーシュは一度もそんな事は説明していなかった。 しかし、もう戦う事すらできないのだ。いくら平民でもそれは判断できるはず。 それが、桐山は分からないのか? 「……いいから! もう決闘は終わりよ! 主人の命令よ!」 そう叫ぶと、桐山はすっと目を閉じて大人しく従い、その場を後にしていった。 既に気絶しているギーシュに対する興味も失っていた。 (まさか……!) ヴェストリの広場へと向かう道中、桐山とそれを追いかけるルイズとすれ違ったコルベール。 そして、そのすぐ後気絶したギーシュが他の生徒達にレビテーションの魔法をかけられて医務室へと運ばれていくのも見届けた。 生徒が無事である事を知って、ホッと息をつく。 ただ、あの様子からしてギーシュは彼に殺されかけたのだと察する。 危害そのものは加えていないようだが、決闘が続いていたら確実に彼はギーシュを殺していたのだろう。 一切の躊躇も、罪悪感も、後悔も、何一つ感じる事はなく。 何故、あんな少年があそこまで冷酷になれるのか。 コルベールには分からなかった。 前ページ次ページ無情の使い魔
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ゼロの使い魔からの支給品 デルフリンガー 北岡秀一に支給 平賀才人の相棒である150cmほどの長剣。 主な能力に魔法の吸収、触れた者の力量を測るなどがある。 本来は錆びを自由に落とせるのだが、ロワに参戦した時期にはまだ思い出していない。 ルイズの杖 水銀燈に支給 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使う杖。 破壊の杖 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに支給 正式名称M72 LAW。 アメリカ製の携帯式対戦車ロケットランチャー。 黄金の剣 シャナに支給 150cmほどの大剣。 鉄をも一刀両断するという触れ込みだが、実はかなり脆い。 エロ凡パンチ・75年4月号 山田奈緒子に支給 どうみてもただのエロ本です。本当にありがとうございました。 実はアニメ版にしか出てないのだが、気にするほどのことではない。 惚れ薬 高良みゆきに支給 水のメイジであるモンモランシーが調合した薬。 飲んでから最初に見た異性に熱烈な好意を抱くようになる。 解除には水の精霊の秘薬が必要で、効果が続いている間の記憶は残る。 秘薬に順ずるものでも解除出来るかもしれない。 タバサの杖 カズマに支給 タバサが使用する木製の杖。 かなり大きいので鈍器としても使用可能。 眠りの鐘 銭形警部に支給 この鐘を鳴らすことで、周辺にいる人間を浅い眠りの誘う。 ただし一度使ったら、二時間は使うことができない。